リスク管理【4】(11)

取組事項

出荷する商品の表示の管理及び収穫記録と結びついた農産物の出荷記録、それ以外の農場の管理等に関する記録の作成・保存。

解説

出荷する農産物には、食品表示法に基づき適正に名称及び原産地を表示します。さらに、納品・取引先には、農場名、商品の情報(数量、規格等)、出荷日もしくは納品日を情報として提供します。
この農場名と出荷日は、取引先からの問い合わせに答えられるよう、各種記録に紐づけます。
クレームが発生した場合、再発防止のための原因の追及と、被害を最小限に食い止めるために出荷した農産物の回収が必要になります。
そのために記録を紐づけ、トレーサビリティを確保します。
トレーサビリティには 2 つの方向があり、ひとつは、事故品から原因となった作業、場所等を特定するために記録を使って辿る作業です。
もうひとつは、原因となった作業、場所と同じロットの農産物をどこに出荷したか、記録を使って辿る作業です。
この双方向を辿ることができてはじめてトレーサビリティが確保されている状態になります。
農産物と出荷、出荷と収穫、収穫と栽培(防除、施肥、種苗管理等)の記録を日付やほ場名、品種名等で紐づけ、付帯する衛生管理(作業者の体調、手洗い、消毒液濃度等)、品質管理(温度や湿度、保管期間等)の記録とも関連付けることができれば、出荷した農産物の詳細な履歴を辿ることができるようになります。
なお、クレーム対応や商品回収の範囲を決めるために、出荷、収穫の記録について1 ロットをどのように設定するかが重要です。1 日 1 ほ場を 1 ロット、1 日複数ほ場を 1 ロット、複数日 1 ほ場を 1 ロットなど、農場によって考え方は異なります。ロットの単位を小さくすればするほど、日頃の記録は多くなりますが、問題発生時の原因特定がしやすくなり、出荷停止や回収の範囲は最小限にとどめられます。
ロット単位を大きくすれば、日頃の記録はしやすいですが、問題発生時に出荷停止、回収の範囲が大きくなってしまいます。
バランスの取れたロット単位を設定する必要があります。
経営方針に従ってロットの考え方を決めたら、日数やほ場の単位=ロットごとの収穫量、そして調製作業による廃棄量を記録します。
こうした一連の記録により、製品の歩留り、秀品率等を把握できるようになりますし、計画と実績を比較し、次期作の計画を立てる際や経営改善にも役立てることが可能になります。
農場では、他の農場の生産工程の一部を請け負うこと、委託すること、また他の農場の農産物を購買して販売、流通することもあります。
その場合、他農場の農産物と自農場の農産物とが混ざらないように識別(農場の別を表示)するか、混合したことを記録する必要があります。
生産工程の一部を外部に委託する場合には、農産物のうち、どれが外部に委託したものか、把握できるようにしておきます。
具体的には、定植するほ場を分ける、定植日・収穫日を分ける、委託する品種と自作する品種を分けるなどします。
こうすることで、外部委託先がこちらの要求通りの栽培管理の能力を有するか、評価することができます。
また、外部委託又は購入した農産物=出荷物については、品種別に分ける、出荷先を分ける、伝票や包装に荷印を付けるなどして、識別できるようにしておきます。
外部には識別できない方法でも構いません。
もちろん、農場の農産物と、購入又は外部委託した農産物を混合して出荷しても構いませんが、その場合、出荷した農産物へのクレームが、農場の管理によるものなのか、購買先・外部委託先の管理能力によるものなのか、判別できなくなります。
混合する場合は、そのまま農場の責任としてクレームに対応する覚悟が必要です。
農産物の出荷や収穫等に係る記録は、番号 7 と同様、一定期間保管しましょう。

具体例と想定される対策

番号

11-1

【具体例】

農産物へのクレームに対し記録を辿ることができず、原因を把握することができなかったため、次期作でも同種の事故が再発。

【想定される対策】

出荷する商品の段ボール、袋やフィルムに農場名を記載する。
出荷伝票に農場名と日付を記載する。
出荷伝票の日付と農産物の調製、収穫、栽培等の記録を紐づける。
トレーサビリティが確保されているか、記録を辿って確認する。

番号

11-2

【具体例】

食品安全にかかわる事故が発生したほ場を特定できなかったため、全ほ場の農産物の出荷を一定期間停止。

【想定される対策】

トレーサビリティが確保されているか、出荷記録、収穫記録、栽培・防除記録を使って照合可能か、日常的に点検する。
辿ることができない記録を把握し、補充、追加する。
回収対象の範囲と損失を考慮し、ロットの単位を決定する。
出荷記録と紐づく調製作業、収穫記録、防除記録を作成し保管する。

番号

11-3

【具体例】

残留農薬基準違反が発覚したが、出荷先が特定できず、全ての農産物を回収する事故が発生。

【想定される対策】

トレーサビリティが確保されているか、収穫記録、栽培・防除記録を使って照合可能か、日常的に点検する。
辿ることができない記録を把握し、補充、追加する。
回収対象の範囲と損失を考慮し、ロットの単位を決定する。
出荷記録と紐づく調製作業、収穫記録、防除記録を作成し保管する。

番号

11-4

【具体例】

農産物へのクレームに対し、購買品と農場の農産物との判別ができず、原因を把握することができなかったため、次の納品でも同種の事故が再発。

【想定される対策】

出荷伝票、商品に識別可能な荷印をつける。
商品、出荷伝票から農場、購買品、外部委託工程のある農産物の照合ができるようにする。
トレーサビリティが確保されているか、記録を辿って確認する。

区分

Ⅲリスク管理

農業生産工程段階

出荷

品目

共通

分野

農場経営管理

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