リスク管理【1】(8)

取組事項

農場の基本情報及びコーデックス規格の HACCP の考え方に沿って、食品安全(品質を含む)に関する危害要因について危害要因分析を実施し、食品安全上のリスクが高いと判断した危害要因について、危害要因による汚染を防止・低減する対策を実施するための農場のルールの設定及びこれに基づく対策の実施、検証、見直しを実施。

解説

安全な農産物を提供することは、農場の責務です。安全でない農産物を出荷、販売等してしまうと、法令違反であるだけでなく、消費者に取り返しのつかない人的被害を与えてしまいかねません。
重大な人的被害を出さないまでも、消費者や取引先に大きな損害を与えてしまい、農場の信用を大きく損なってしまいます。
そうした事故の発生を未然に防ぐため、農産物の安全性を脅かす危害要因を検討し、消費者に健康被害が発生しないように管理します。
農産物に関連する危害要因には、生物的(病原性微生物やノロウイルス等)、化学的(かび毒、重金属、残留農薬等)及び物理的(硬質異物等)なものがあります。
危害要因分析では、農産物がどう消費されるかを考慮しつつ、その生産工程にどのような危害要因が潜んでいるか考えます。
人や、土壌や水などの生産環境に由来するものや、農薬や堆肥などの生産資材に由来するもの、生産工程の中で発生しうるものを、生産工程に沿って列挙し、それらに対する管理手段を挙げていきます(既に行っている管理の振り返りと、追加すべき管理の検討)。
危害要因分析の結果、重要な危害要因については、生産工程で危害要因による汚染を防止・低減するため、危害要因による農産物の汚染を防止・低減する対策を農場のルールとして策定し、作業者に対しルールを周知します。
この際に、特に注意を要する管理点があれば特定し、更に測定可能な管理の基準がある場合には、その限界値を設定し、管理基準の測定方法を定めます。
危害要因に関して、農産物中の最大基準値又は残留基準値が設定されている場合には、それを超えないような対策を策定し、周知します。
実際にルールを運用してみて、記録や検査に基づいてルールが守られているかどうか確認するとともに、本当に危害要因による汚染を防止・低減できたのか対策の有効性を検証します。
ルールが危害要因による汚染の防止・低減に有効でないと判断された場合、ルールを見直します。
また、生産工程を変更した、新しい施設・機械を導入したなど環境に変化があった場合には、あらためて危害要因分析を行い、必要に応じてルールを見直します。
農場に関連する食品安全上の危害要因の抽出・特定にあたっては、厚生労働省が作成しているガイダンスにある「原材料に由来する潜在的な危害要因」や農林水産省が策定している、優先的にリスク管理を行うべき有害化学物質、有害微生物のリストに掲載されている危害要因やそのリスクプロファイルも参照します。
危害要因分析は、ほ場・倉庫・作業所等の場所ごと、土や水、農薬、肥料等の資材の保管や状態ごと、作業者や機械、器具等の関わりごとに、危害要因を抽出・特定し、食品安全上のリスクの大きさを推定しなければなりません。
危害要因分析は、番号 1で把握した、商品仕様書、生産工程フロー図、地図・レイアウト図等を活用して実施します。
この危害要因分析が適切でないと、本来、対策を強化すべき部分が脆弱になったり、逆に本来はそれほど対策を取らなくてよい部分に過剰な投資をしてしまったりということが発生します。
想定される消費者の健康リスクの大きさや、食品安全上の問題が発生した際に生じる自らの経営上のリスクに見合った対策を取ることが必要です。
危害要因分析(危害要因の抽出・特定、重要な危害要因かどうかの判断、管理手段の検討) → 危害要因による汚染の防止・低減対策の立案と実施 → 対策が有効に機能しているかの検証 → (必要に応じて)対策の見直しを繰り返し、食品安全上の管理体制を確立します。
農業は、開放系の作業が多いため、生産環境に由来する危害要因の管理が特に重要です。
また、悪意を持った者による意図的な危害要因の混入も考えられますので、食品防御(フードディフェンス)や食品偽装(フードフラウド)の観点も盛り込んだ管理を実施します。
なお、農産物の種類ごとに、農林水産省、厚生労働省、都道府県、農研機構等から危害要因の管理のガイドラインや指針が発行されている場合には、それらを参考にして危害要因分析を行い、自らの農場の管理体制を確立します。
危害要因分析を行ったら、農場における作業の様子や現場の実態と照合し、抽出した危害要因に漏れがないか、危害要因による食品安全上のリスクを過少又は過大評価していないかを確認しましょう。
食品安全には直接影響しない、農産物の品質を損なう事故も、度重なれば農場の信用を失墜させます。
品質を低下させる要因(砂の付着、毛髪やビニール片の混入、過熟、黄変など)についても上記と同じ手順で抽出し、要因分析、要因の発生防止・低減対策の検討、実行、見直しにより、品質事故を起こさない体制づくりを目指します。
<参考>
コーデックス規格:消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保等を目的として、1963 年に FAO 及び WHO により設置された国際的な政府間機関であるコーデックス(Codex)委員会において策定された国際食品規格

具体例と想定される対策

番号

8-1

【具体例】

加熱調理をする食品工場向け農産物なのに、生食用の農産物と同水準の衛生管理のための対策が取られ、不必要な投資が行われる。

【想定される対策】

意図する喫食の仕方を考慮した食品安全上のリスクを推定する。
維持経費のかかる過剰な対応、投資をしない。

番号

8-2

【具体例】

作業所の天井からペンキがはがれ、異物混入が発生。

【想定される対策】

施設の状態について定期的に点検、修繕を行う。
間接的に農産物を汚染する可能性があるものを含めて施設起因の危害要因を抽出する。
実行可能な対策を検討する。
施設内の壁、床、天井等に有害な物質が使用されていないか点検する。

番号

8-3

【具体例】

機械部品が脱落し、金属異物混入が発生。

【想定される対策】

関連する機械起因の危害要因を抽出する。
機械の状態について定期的に点検、修繕、補修を行う。
機械使用前後に取付け部品、接合部、ボルトやナット、ネジにゆるみ、脱落がないか確認する。

番号

8-4

【具体例】

作業員がケガをした際の血液が農産物に付着し、異物混入が発生。

【想定される対策】

作業員が農産物(収穫物)に触れる可能性がある工程を特定する。
ケガをした際の対応を設定し、実施する。

番号

8-5

【具体例】

袋詰め工程で作業員に由来する病原性微生物の汚染事故が発生。

【想定される対策】

作業員が農産物(収穫物)に触れる可能性がある工程を特定する。
農産物に触れる作業員に、手洗い、手袋着用、アルコール消毒など品目に合わせた衛生対策=ルールを設定し、実施する。
対策を講じたことを記録する。

番号

8-6

【具体例】

悪意ある他者の意図的な操作により、農業用の井戸水に化学物質の汚染事故が発生。

【想定される対策】

悪意を持った他者が、農場やその関連施設に侵入する可能性を抽出する。
ポンプ小屋などの関連施設に施錠等の対策を講じる。

番号

8-7

【具体例】

作業者が農薬の希釈倍数を間違えて使用したため、残留農薬基準違反が発生。

【想定される対策】

農薬に関する教育を実施する。
使用方法に誤りがないか、検証する仕組み(番号 60 参照)を構築する。

区分

Ⅲリスク管理

農業生産工程段階

全般

品目

共通

分野

食品安全

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